第21回大会発表概要@


題:ヒット曲から透かし見たアメリカ社会

発表年月日:2007年 3月23日

氏名:遠藤徹(同志社大学言語文化教育研究センター助教授・作家)


 昨年夏まで一年間アメリカに在外研究に出ていました。期待していたMTVもVH1も、音楽に関してはlヒット曲のヘヴィローテーションというありさまで大いに期待を裏切られました。
 でも、くだらないと思って見ていたトップ10ヒットの中にぼくはなんとアメリカ社会の構造をありありと垣間見てしまったのです。
 たとえば、ウイーザーの「ビバリーヒルズ」。金銭的な成功というのが現代アメリカではそのまま「成功」のイメージとなっており、その勝者のみが住める場所がこのビバリーヒルズなわけです。ここに住みたいもんだけど、どうせ俺なんかと嘆くこの歌は、成功者を「羨望」するアメリカ国民の視線の方向をみごとに描き出してくれていると感じました。
 でも、つづいてレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「ダニ・カリフォルニア」を聞けば、こんな認識がまだまだ甘いものだったと再認識せざるを得ません。これは極貧ゆえに銀行強盗を働いて、恐らくは射殺されたダニ・カリフォルニアという女性への鎮魂歌なのです。この歌を聴けば、成功者を「羨望」できる人たちは、成功者と同じ土壌にいる中産階級に過ぎないことに気付かされるからです。それより貧しい階層の人たちには這い上がるチャンスそのものがないので、「羨望」すら生まれようがないからです。彼らに生まれる感情はおそらく自分達の置かれた環境に対する「怒り」だけでしょう。
 経済で縦に分断されたアメリカ社会の状況がこのようにヒット曲によって指し示される。同時に、言語、民族、宗教などによって横に分断されたアメリカ社会を想起させてくれるのが、シャキーラの「ヒップス・ドンド・ライ」や、マチスヤフの「キング・ウイズアウト・ア・クラウン」という曲でした。前者は、一見ヒット狙いのセクシーな曲のなかに、アメリカ社会が移民の国であったことを想起させるセリフを含み、後者はユダヤ教への帰依を訴える宗教的なラップだからです。
 このように、たんなるエフェメラルなヒット曲と見えるもののからも、アメリカ社会の縦横に切り裂かれた社会の実情を垣間見ることができたことは、ぼくにとって驚きでした。発表後の質疑応答も楽しく有意義なものでした。




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