第21回大会発表概要A


題:ヒーローを設定するという仕事 
     〜『仮面ライダー響鬼(ヒビキ)』を例にして〜


発表年月日:2007年 3月23日

氏名:片岡力(フリー・エディター兼ライター)


 私は2005年に放映された『仮面ライダー響鬼(ヒビキ)』(テレ朝系、毎日曜8時放映)という子ども向けヒーロー番組に、東映の「文芸チーム」の一員として企画立ち上げ時から1年ちかく関わった。「文芸」とは、設定、世界観、年間のシリーズ構成、サンプルストーリーなどを考える非常設の部署のことで、『響鬼』では番組担当プロデューサーの下、2〜3人の外部ライターで構成されていた。ここで考え出された諸設定に基づき、メイン・スポンサーである玩具メーカーのバンダイ、およびその子会社で玩具デザインを担当するプレックスなどの関係各社を交えた打ち合わせの席でデザインが決定され、その後玩具の製造、造型物の制作、シナリオの執筆、撮影、合成というプロセスを経て放映に至る、という流れに原則的にはなる。しかし事はそう右から左には運ばない。
 この手の番組と他の一般ドラマとでは、制作会社とメイン・スポンサーの関係が大きく異なる。ヒーロー番組では、劇中に登場するヒーローやプロップ(小道具)が、劇の外の現実世界(=市場)ではスポンサーの製造・販売する玩具商品として展開される。そのためスポンサーが番組の内容(主にデザイン面や劇中での露出度・活躍度)にまで――時には共同制作に近いかたちで――深く関与してくる。例えば、現在の〈平成ライダーシリーズ〉は、1タイトルでバンダイの関連商品の売上高が数十億円にも達しているが、その高い売上目標達成のため、早い時期から玩具の製造・販売スケジュールがバンダイから提出され、それに沿って年間のストーリーラインを組み立てるよう要請される。「この月はこれだけの売上を出したいので、このタイミングで2号ライダーを登場させてほしい」といった具合に。
 しかも、劇中のヒーローやプロップが先に在り、それを模して玩具が作られる、のではない。むしろ反対に、スポンサーが売りたい玩具が先にあり、その玩具の購買意欲を煽るために劇中にカッコよくプロップとして露出させる、という逆立ちした事態が珍しくない。畢竟文芸チームは「その玩具がプロップとして登場しても“浮いて見えない”ような設定・世界観を考える」のが仕事、ということになる。さらには、PL法(製造物責任法)施行以降、耐久性・安全性テストに相当な時間を割くようになったため、例えば「設定がまだほとんど何も固まっていない段階にもかかわらず、玩具に仕込む打撃音の作曲を依頼しなくてはならない」という事態も現実に生じた。 
 当日の発表では、以上のごとき子ども向けヒーロー番組における制作会社とスポンサーとの特殊な関係、およびそれに起因する「まず玩具ありき」的な制約下での作劇の難しさ、といった点にウエイトを置いてその時の経験をお話した。詳細については拙著『「仮面ライダー響鬼」の事情 〜ヒーローはどう〈設定〉されたのか〜』(五月書房刊)を参照されたい。




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