第22回大会発表概要A


題:コロンバイン銃乱射事件以降のアメリカTeen Films

発表年月日:2007年6月30日

氏名:中垣 恒太郎氏(常磐大学専任講師)


 アメリカTeen Films(学園映画)は1980年代にジョン・ヒューズ(John Hughes)監督、『ブレックファスト・クラブ』(The Breakfast Club , 1985)などの作品によってジャンルとして確立し、発展を遂げてきた。Teen Filmsの変遷を通じて、アメリカの社会問題の有り様、およびアメリカ文化の特質を考察することができる。一般にTeen Filmsの領域は研究の対象として取り上げられることは決して多くはなかった。しかしながら近年ようやく、Jonathan Bernstein, Pretty in Pink: The Golden Age of Teenage Movies (1997)や長谷川町蔵、山崎まどか『High School U.S.A.――アメリカ学園映画のすべて』(2006)に代表される、主にジャーナリストの立場からのすぐれた研究成果があらわれている。また、文化研究の側面からも現代アメリカ社会を展望するための格好の素材として注目が高まりつつある。

John HughesとアメリカTeen Filmsのジャンル生成

 映画監督・脚本家ジョン・ヒューズはアメリカTeen Filmsのジャンル生成に決定的な影響力をもたらした。中でも代表作となるのが、『ブレックファスト・クラブ』である。様々な理由で土曜日の休日登校を命じられた5人の男女の高校生を、それぞれ5つに類型化(Jocks [体育会] / Princess[プリンセス] / Brain (Nerd)[オタク]/ Bad Boy [不良] / Goth[ゴス])し、アメリカにおける学園内人間関係のあり方を提示してみせた。『ブレックファスト・クラブ』で提示されたTeensの類型化は、さらにTeen Filmsのサブジャンルとしても細分化され、「チアリーダー(Queen Bee/学園女王)もの」、「カンニングもの」、「ジョックス(Jocks/体育会系)もの」、「はぐれっこもの(the Floater) 」などの形でさらに独自の発展を遂げている。

コロンバイン高校銃乱射事件「以後」の想像力/郊外の閉塞感

 Teen Filmsのジャンルにおいて新たな分水嶺となったのが、1999年4月20日に実際に起こった、コロンバイン高校銃乱射事件であろう。ドキュメンタリー映像作家、マイケル・ムーア(Michael Moore)による『ボウリング・フォー・コロンバイン』(Bowling for Columbine, 2002)、ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)監督、『エレファント』(Elephant, 2003)が逸早く事件に反応し、Teen Filmsの領域からは、ベン・カチオ(Ben Coccio)監督による『ゼロ・デイ』(Zero Day, 2003)が、学園内人間関係において下位に位置づけられる、10代の少年たちの閉塞感をドキュメンタリー・タッチで描いた。ここに1980年代におけるレーガン政権「以後」の格差拡大がより顕在化した、Teensを取り巻く状況の反映を読み込むこともできるだろう。
 一方、思春期の娘を持つ母娘への指南書(Rosalind Wiseman, Queen Bees and Wannabees, 2002)を脚色した、マーク・ウォーターズ(Mark Waters)監督、『ミーン・ガールズ』(Mean Girls, 2004)は、両親の仕事の都合によりアフリカで育った16 歳の転校生の目を通して、アメリカの高校における女の子同士の「派閥」の問題を採り上げている。いじめや陰口、足の引っ張り合いなど負の側面を描きながらも、最終的には皆が和解する結末を提示することにより、コロンバイン銃乱射事件/9.11「以後」の時代思潮の中で、「学園内他者との共生」の可能性を示唆している。

まとめ

 格差社会や、閉塞感、学園内人間関係の軋轢など、Teensが抱えている問題は現実のアメリカ社会の縮図であり、アメリカTeen Filmsのジャンルの変遷史を探ることにより、アメリカ的価値観の揺らぎをそこに見出すことができる。





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