第24回大会発表概要A


題:クラスターとしてのブロードウェイ

発表年月日:2007年12月08日

氏名:茂木崇(東京工芸大学専任講師・
慶應義塾大学メディア・コミュニケーション
研究所研究員)


 ニューヨークのブロードウェイにおける演劇の興行は近年優れた興行成績を上げており、2006-2007年のシーズンにおけるブロードウェイ全体の総売上も9億3850万ドルと史上最高額を更新した。本発表は、アーツ・マネジメント論の観点から、ブロードウェイが100年にわたって演劇の都であり続けてきた要因を分析しようというものである。
 ブロードウェイが長期にわたって発展を遂げてきた要因は多々あるが、本発表では下記の三点について言及した。
 第一は、ブロードウェイがクラスターを形成してきたことである。歩ける範囲の狭いエリアに39の劇場が立ち並び、観客にはバラエティに富んだ作品の数々を、ブロードウェイ関係者にはお互いに切磋琢磨して優れた作品を生み出そうと刺激をあたえる環境を発達させてきた。
 第二は、外部からの資金調達を促すファイナンスの仕組みを発展させてきたことである。すなわち、ブロードウェイにおいてはリミティッド・パートナーシップ(近年はLLC)を用いて出資を募ってきた。このスキームにおいては、出資者は自ら出資した金額についてのみ責任を負う有限責任で、仮に興行の過程で負債が発生したとしても出資者は出資金を失うのみで、それ以上の出資を迫られる危険がない。
 第三は、ジャーナリズムによる厳しい劇評である。特に初日翌日の紙面に掲載される『ニューヨークタイムズ』の劇評が芝居がヒットするかどうかに大きな影響力を及ぼしてきた。
 同紙は、ブロードウェイ関係者との馴れ合いを防ぎ批評の権威を高めるため、劇評家とブロードウェイ関係者との交流を禁じ、取材が必要な興行面についての記事は別な記者が担当する。また、厳しい批評を書きにくくなるため、ブロードウェイの特定の公演のスポンサーにはならない。
 以上の点は日本の演劇界にとっても参考になる点だと思われるが、ブロードウェイもボーモルの病から逃れることはできずにいる。技術革新を進めることにより人件費を削減しコストダウンを図るという他の産業では幅広く見られる経営革新は、舞台ビジネスにおいては難しい部分がある。シェイクスピアが生きていた時代から400年たった現在でも、シェイクスピア劇の上演に必要なキャストの人数を減らすわけにはいかない。
 このような問題も抱えつつも、デジタルの時代を迎え、ライブの舞台への欲求は高まってきていると考えられる。コンピュータや携帯電話と接する時間が長くなればなるほど、生の舞台を見たいという欲求もまた高まってくる人は多いようである。
 ブロードウェイは芸術性とビジネスの両面を満たす作品作りを心がけてきた。様々な困難に直面しながらも、ブロードウェイは今後も着実に発展を続けていくものと考えられる。




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