題:バーチャルリアリティー再考―20世紀末から10年で“見”えてきたもの 発表年月日:2008年06月21日
20世紀末から10年、バーチャルリアリティーという言葉が登場してから20年、それまで空想・幻想・想像・虚構・仮構などと呼んでいたものが「仮想」という言葉に置き換えられてきました。例えば、凶悪な事件が起きるとその原因は、犯人が現実と仮想の世界の区別がつかなかったためなどと言及されます。また、バーチャルリアリティー技術でも、現実と仮想という二元論に基づいて研究が行われています。もっとも、神話や小説などの仮想(空想)世界とテレビゲームやスーパーコンピュータによる未来予測シミュレーション、バーチャルリアリティー技術の仮想現実は峻別されるべきです。どんなに複雑なアルゴリズムによるコンピュータ技術であっても、私たちが目の当たりにしている現実社会や私たちの想像力に比べたら、ほんのわずかな情報でしかありません。何れにせよ、私たちの多くは、「現実」と「仮想」という二つの世界が存在するという二元論を信じています。しかし、「仮想」という概念自体とても曖昧で、日本語においては、さらに混迷を極めています。人は言語という道具で思考するとするならば、「現実」と「仮想」についてはすでに思考できなくなっているといわざるを得ません。氏名:上野俊一(いわき明星大学人文学部表現文化学科専任講師) 今こそ、「仮想 (The Virtual) 」とは何かについて問うときであり、やっとドゥルーズの「The Virtual (潜勢態) とThe Actual (現勢態) 」の概念が理解できるときが来たといえるのではないでしょうか。ドゥルーズは、「The Virtual (潜勢態) 」の反対概念は「The Real (現実態)」ではなく「The Actual (現勢態) 」であると説きます。潜“勢”、現“勢”と訳されたように、両者ともそのまま止まっていません。反対概念でありながら、一心同体なのです。このドゥルーズの流動的な哲学は、仮想と現実といった二元論をはじめ、静的に思考することに慣れてしまっている私たちには理解しがたいものです。すべての事象は、The Virtualであり、The Possibleや The Impossible の中から、その時々で一つを選び、The Actualとなります。一旦、The Actual となっても、それはすぐさま、The Virtualとなるのです。ドゥルーズはこれを「差異」と「反復」と呼び、一方、ドゥルーズの考えを発展させ、デジタルエイジを解明したピエール・レヴィ(Pierre Levy) はBecoming Virtual (1998) の中で、これをActualization とVirtualizationと呼びました。今回の研究発表では、The Possibleや The Impossibleのほかに “Beyond Imagination” という範疇を新たに提示しました。また、この流動的な哲学の例として、19世紀アメリカ超絶主義や20世紀初頭イタリアの未来派の芸術運動を挙げ、いわゆる「近代」からの脱却が求められ、新たな世界観の構築が必要な21世紀の今こそ、流動的な哲学が必要であると述べました。 |