第27回大会発表概要


題:試論 ロック・ミュージックの誕生へのポップカルチャー論的アプローチ

発表年月日:2008年09月20日

氏名:松本利秋氏 (国士舘大学・千葉工業大学兼任講師)


 今回のロック・ミュージック分析手法は、シカゴ大学歴史学教授テツオ・ナジタがその名著『明治維新の遺産』で行った徳川期の分析手法に倣ったものである。この手法では、歴史を二つの勢力の相対・対決として捉えるヨーロッパの相対論的手法に米国流のプラグマティズムを加味し、実学としての歴史分析手法をとっているところに最大の特徴があると言ってよいだろう。この種の手法を用いるのは経済学・社会学に大きな功績を挙げているシカゴ学派である。シカゴ学派は、社会学に於いては1900年頃、移民の町シカゴを都市の実験室として捉え、「実験室としての都市」の人間を観察する人間生態学を社会学の中心とし、生々しい人間行動の経験的調査研究を行う事で、都市生活者の生活史などをモノグラフとして記述する実証研究で成果を挙げている。
 この方法論を私的にアレンジしてみれば、手法の中心をなすものは「モデル」という概念で、これは様々な言説を超えて、誰でも納得できる科学的裏付けと、説得力を持つ考え方の枠組みを持った解釈装置とでも言えるものである。これを機能させるには1.常に研究対象に対する検証が必要で、過去(フィールド)の調査から得られた情報をデータとして蓄積。2.それに基づく仮説を設定する。3.仮説は新しいデータを得るたびにモデルを検証する装置となる(これはあくまでも中間の範疇をなす理論であり、モデルを作成するための設計図的な役割を果たすと同時にモデルの検証装置でもある)。4.モデルはこれらの事を総合的にまとめ上げ、歴史叙述を行い、過去(フィールド)を捉えなおす作業を行い、その事によって過去(フィールド)からの問題の提起を受けるという無限の流れを設定し、常にモデル自体の完成度を高めて行く。
 今回の発表の目的は上記の手法に倣い、ロック・ミュージックが若者文化の中で世界的共通体験となった事に付いて一つの解釈的な見通しを展示しようとする事である。第二次大戦後のアメリカという特殊文化の中で誕生した時代背景をモデルとして提起し、このモデルを通して1950年代から1960年代のポップ・ミュージックにまつわる諸事件に内在する実践構造と20世紀後半までに起きたポップミュージックの諸事件に内在するそれとの内面的意味が一貫している事を実証しようというモノグラフ的なアプローチを試みる事でポップカルチャー論成立のための具体的方法論を模索しようとしたところにある。その事を具体的に言えば、ロック・ミュージック誕生のメカニズムを内在的に検証するため、そのモノグラフの基本モデルを黒人音楽のアメリカ的特殊性と白人音楽のアメリカ的特殊性の対立の構図をモティーフに置いた事。そして、ロック・ミュージックが世界的な展開をとげるまで一貫してこの二つの価値観が存在し続けた事の実証を試み、ロック・ミュージックが変化していく行動様式の中での一貫性を提示しようとしたものである。




ここはポップカルチャー学会のホーム・ページです。
(c)&(p) 2005-2008 Association of Pop Culture Studies
This site is created and maintained by Yoshifum! Nagata
for Association of Pop Culture Studies.

Can't see the frame? Click here.
サイト・トップはこちら。