第28回大会発表概要


題:時間銀行について――新たなボランティア活動の仕組み――

発表年月日:2008年12月13日

氏名:藤原眞砂(島根県立大学社会学教授)


 ボランティアは見返りを求めない無償の行為を本旨としている。しかし、愛他的な理念、志しだけでは、活動は長続きしない。長期的活動の視野に立てば、利害関心を動機づけとして組み込む工夫が必要となる。わたしが今回、紹介したニッポン・アクティブ・ライフ・クラブ(NALC:ナルク)は、「自立・奉仕・助け合い」を理念として掲げている。しかし、ナルクは他方で、会員が他者に対して行った活動の実績の時間量を、また他者から受ける時間量を金銭のようにやりとりし、会員の相互のニーズを充足する仕組みを構築し、全国展開している。
 具体的に説明しよう。まず、私は会員登録する。そして本部に依頼された近所の高齢者会員の庭の草取りに4時間従事したとしよう。これにより私は4時間を本部に貯蓄することになる。私はこの4時間を自分が病気で買い物が出来ないとき、他の会員に買い物代行を依頼するときに利用出来る。また、故郷の母の通院の付き添いを、母が住まう地域の会員に頼むときにも利用出来る。要するに、私は自分の預託時間量を、自分のためだけでなく、遠く離れた自分の親族、知人にためにも活用出来る。この際、私を助けてくれた会員は、私が用いた4時間のぶんを組織に預託することになる。ナルクはこうした時間預託制度を基盤に理念を実践している。
 経済成長の意図しない結果として、わが国では65歳以上の非生産年齢人口の急速な増大と出生数の減少が同時に進行している。非生産年齢人口を支える生産年齢人口に重い負担がのしかかることは必至である。増大する高齢人口のニーズを満たす介護、看護等の市場サービスは成長しよう。また、高齢者にたいする行政サービスも充実が期待されよう。市場のサービスは金銭をもって購わなければならない。また、行政サービスに使われるお金はもとを辿れば私たちが納めた税金が原資である。高齢者自身にとっても、若い世代にとっても、高齢化社会を支えるために多くの経済的負担が予想される。
 社会のすべての成員に降りかかる経済的負担を軽減するためには、市民が互いのニーズの充足に手を差し伸べる、共助の社会を構築しなければならない。農林漁業が主流の社会では地縁、血縁をもとにした結いの関係があった。それらはサラリーマン社会になると、会社の人間関係が中心の社縁の社会にとって代わり、衰退した。ナルクでは、時間預託制度を利用した活動により新たに共助の社会、「良縁」の社会を構築しようと提唱している。インターネットが空間の制約を取り払っている。「良縁」は居住する地域の範囲を遙かに突き抜けた空間的拡がりをもって展開することになろう。
 高齢者が元気なうちに時間預託制度を活用したボランティア活動に励めば、彼ら/彼女たちが本当に人の手を借りたくなったときに、時間銀行から自分の時間を下ろして廉価に自らのニーズを満たすことが出来よう。私たちは少子高齢化社会を廉価に暖かく支える社会の仕組みを構築しなければならない。余暇時間を大量に持つ高齢者が時間預託制度を介して彼らの時間資源を愛他的に活用すれば、それは社会を支える莫大な資源となろう。
 こうしたボランティア活動の時間預託制度は、国内に居住する国籍、人種を異にする人々にも開かれているから、これは高齢者のみならず、外国の隣人たちとの善意の輪も拡げる普遍的な制度となることも期待される。


[追記] 困難と思われる時代を突破する夢を語らせていただきました。発表の機会を頂いた学会に感謝します。拙いはなしに、出席者の皆さん全員から建設的で啓発的なご意見を多数頂きました。深謝します。



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