第33回大会発表概要


題:新しい修道院生活運動
―― 9・11以降のアメリカにおけるキリスト教アクティビズムの一形態


発表年月日:2010年03月20日

氏名:石塚 幸太郎 (神奈川大学)


 「新しい修道院生活運動(New Monasticism、以下NMと略)」は、主に都市部の貧困地区で共同生活をしながらその住民たちに対して奉仕活動をする、キリスト教徒を中心とした運動である。セツルメントとも言うべきこうした運動は、アメリカにおいて、ハル・ハウス以来の伝統がある。公式には2004年に活動を開始したばかりであるNMを、セツルメントを含めたアメリカの目的共同体建設史に位置付ける。本報告では、そのリーダーの1人であるシェイン・クレイボーンの活動を中心にそれを試みた。
 クレイボーンは1975年、テネシー州に生まれた。大学在学中、近隣のフィラデルフィア州ケンジントンでホームレスの人々の支援活動に関わり、1998年、そこに「シンプル・ウェイ」という目的共同体を設立した。
 クレイボーンはこれまで、この共同体を拠点に、近隣地区への奉仕活動にとどまらず、街頭でのアクティビズム、講演、著作、あるいは映像制作などさまざまな活動を展開してきた。彼は、キリストの奇跡を含むさまざまな教えや行いは、想像力と創造性に富んでいたがゆえに人々を魅了したと考え、自らの活動の手本としている。そこにはキリスト教が人の行動に対する影響力を失ってしまったというクレイボーンの認識がある。その意味で彼はそのポップカルチャー化を批判しているのであるが、一方で彼自身の活動はポップカルチャー的な装いのもとに行われることが多い。
 クレイボーンは2003年3月、攻撃開始直前のイラクにおもむき、イラクの人々と交流した。2004年にNMが開始されたのは、このイラク訪問が直接のきっかけとなったと思われる。この戦争に対して肯定的なアメリカにおけるキリスト教のあり方に疑問を抱いたのである。シンプル・ウェイのような都市部の貧困地区で奉仕活動を行う目的共同体のネットワークが形成され、連携を図りつつ自らの考えをより積極的に世に問うようになった。
 NMは、かつてローマ帝国のもとで俗世を避け砂漠に修道院を設立したキリスト教徒たちに自らをなぞらえている。アメリカが帝国であり、都市部の貧困地区が砂漠である。キリストの隣人愛の実践や人種間の対立の解消を目的として掲げている点では、セツルメントの伝統に連なると言えるだろう。一方で既存の教会組織を否定せず教会は1つであると考えている点、規律のある生活を重んじている点、あるいはこれまでのセツルメント運動から積極的に学ぼうとしている点では、例えば1960年代や70年代に現れた「ジーザス・フリーク」と呼ばれた人々が設立したコミューンとは異なる。
 以上が報告の概要である。その後の質疑応答では、タイトルや報告前の概要に掲げた「9・11以降」と「ポップカルチャー」の定義があいまいであり、NMとの関連性が不明確であるなど、数多くのご意見やご批判を頂いた。今後の課題とさせて頂きたい。この場を借りて出席者の方々に感謝する次第である。




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