第34回大会発表概要


題:魔法使いと神様 アニメを変えた二人

発表年月日:2010年06月05日

氏名:今泉友介
(国際基督教大学大学院博士課程)


 魔法使いの王様と呼ばれたウォルト・ディズニーと漫画の神様と呼ばれた手塚治虫、この二人がアニメの歴史上とても重大な役割を担っていた事は常識である。しかし、私達は彼等の作品の芸術性の高さや完成度に目を奪われてしまい、この二人だけが持っていた他のアニメ作家たちとは根本的に違う思想こそが、アニメの歴史動かしたという事実に目を向けてこなかったのではなかろうか。ウォルト・ディズニーが持っていた思想とは、「アニメの中には独自の世界があり、その登場人物であるキャラクター達は生命を持っている」という事である。現在のアニメ作品ではごくごく当たり前の考え方となっているが、実はウォルト・ディズニーが活躍し始めた当時はこのような考えを持つアニメ作家は他にはまずいなかった。例えば世界初のアニメーション作品と呼ばれる1908年に発表されたエミール・コールのFantasmagorie を例にとって見よう。この作品のクライマックスでは主人公が高所から転落し、首が刎ねられて死んでしまうのであるが、次の瞬間に作者であるエミール・コールの手が作品内に降臨し、ピエロを健康な姿に描き直して復活させてハッピーエンドを迎える。作者にとってアニメの世界は完全なコントロール化にあり、キャラクターの生き死にも作者次第で自在に操れるものだと考えられていたのである。コールに限らず、初期のアニメ作家の殆どは自分が三次元存在の現実の存在であるのだから、二次元の架空の存在であるアニメを従わせる事ができると考えていた。ところが、ウォルト・ディズニーは全く逆の発想を持っていた。彼は"Alice Comedies"と呼ばれるシリーズにおいて現実の女の子がアニメの世界に迷い込み、危機をアニメのキャラクターに助けられるという作品を作ったのである。三次元よりも二次元の方が優れているのだ、と取れる作品である。ミッキーマウスのアニメを作る際に音楽をテーマの作品をウォルトが創り上げたのは、単にトーキーという新しい挑戦だけではなくウォルトが「アニメの世界にも、音楽を伝える事のできる大気か存在している」という事を信じていたからではないかと私は考えている。一方で手塚治虫の持っていた思想は、ウォルトに大いに影響を受けて生まれたものである。それは「アニメのキャラクターは生命を持っているのだから、成長し、老い、死んでいく」というものである。手塚はディズニー作品の中でも子供が母を亡くした悲しみを乗り越えて大人へと成長するという『バンビ』を最も気に入っていた。そして手塚自身が発表したアニメ『鉄腕アトム』においてはそれを更に進めたものを打ち出す。息子を亡くした博士が狂気を乗り越えられずに、息子の代理としてアトムを誕生させる。このような悲劇をテーマとしたアニメ作品を世界で初めて創り上げたのである。しかも、連続シリーズの最終話はアトムの死で締め括られ、結末が存在するシリーズ作品を世界で初めて成功させたのであった。



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