題:Manga Shakespeare ― エリザベス朝演劇とジャパ ン・クールの出会い 発表年月日:2010年9月18日
Manga Shakespeareシリーズは、イギリスのグラフィック・ノベル専門の出版社SelfMadeHeroにより2007年〜2009年にかけて発行された、シェイクスピア作品(14点)である。シェイクスピア作品のマンガ化には多くの種類があるが、このシリーズは以下の点で興味深い。1.シリーズ名が示すように、多少とも「マンガ」的手法を取り入れており、イギリスの書店のMangaないしGraphic Novelsコーナーでは他のコミックスと一緒に陳列されることもある。2.1の事実からこのシリーズが注目されていることがうかがえ、現代イギリス社会におけるシェイクスピアの位置づけを考える上で参考になる可能性がある。なお、この2点を考える際に、日本のマンガ、アニメ、ゲームなどが「クール・ジャパン」として受け入れられている事実が背景にあることを考えた。氏名:佐藤 由美(富士常葉大学総合経営学部) まずイギリスにおけるコミックスの発行状況を考えた。現在イギリス国内で発行されているコミックスで、一般書店で販売されているため入手しやすく、青少年層が購入する可能性が高いものとしては、アメリカンコミックス(DCコミックやマーヴルコミックスなど)、イギリス国内の出版社から発行される定期刊行物2000 AD(週刊)およびJudge Dredd Megazine(月刊)がある。書店によっては、これらの傍らに日本やアジアのマンガ、アニメ、映画を紹介するとともに日本のマンガの影響を受けたイギリス在住の漫画家が作品を発表する雑誌NEO(月刊)が並んでいることがある。イギリスにおいてコミックスの選択肢は狭いと言える。マンガ・シェイクスピアシリーズがこれらの傍らで販売されていれば、購入者にマンガ作品の選択肢の一つとして見られている可能性はあると思われる。 が、さらに大きな視点、すなわちシェイクスピア作品がイギリスの教育機関でどのような位置を占めるかという問題を扱う必要がある。青少年は学校で自国の「古典」としてシェイクスピア作品と接するのが一般的で、この傾向は教育システムに後押しされている。生徒は義務教育が終了する16歳までにGCSEと呼ばれる試験を受け、その成績は就職ないし進学に影響を与える(特に後者)。また、大学進学を考える生徒はAレベルと呼ばれる試験を受ける必要がある。これらの試験に対応したシェイクスピア作品の解説マニュアルは既に多数存在する。この状況を考えると、またマンガ・シェイクスピアの作品の完成度を考えると、このシリーズは社会的コンテクストを離れ、独立したマンガとして楽しむことができるか、疑問がある。SelfMadeHeroはシェイクスピア作品が教育界に必要とされていることを踏まえた上で、最近イギリスで注目されている「クール・ジャパン」の要素を取り入れるという戦略を立てたと言えるのではないか。 (今回の発表では多くの質問・意見が寄せられました。発表者が想定していなかった様々な視点が与えられ、大いに参考にしたいと存じます。) |