第36回大会発表概要


題:ポップカルチャーを保存する ― 川崎市市民ミュージアムの試み ―

発表年月日:2010年12月04日

氏名:片岡 慎泰(昭和女子大学国際学科准教授)


 ポップカルチャーにたいする関心が、知的立国などの政策、学問、あるいは町おこしなどさまざまな領域から盛んになるにつれて、その資料保存の方法が大きな問題となってきた。なぜなら、いわゆるミュージアムを前提とするハイカルチャーとは異なり、ポップカルチャーは大衆消費を前提としたため、すぐに消費されてなくなってしまったからである。個人的関心から個別に集められていたものや、家屋や倉庫に残されたものが「お宝」ともてはやされているが、それはあくまで偶然の所産にすぎない。
 他方、記録媒体や復元技術の進歩により、もはやみることのできなかった資料がつぎつぎと閲覧可能になり、さらに京都国際マンガミュージアムのように膨大な現在のポップカルチャー作品を網羅しようとする試みもある。
 そこで、今回は1988年に初めて公立のミュージアムとして漫画を対象にした川崎市市民ミュージアムの現状を紹介し、ポップカルチャーの保存という問題をとりあげた。川崎市市民ミュージアムがこのようなユニークな取り組みをすることになるきっかけは、市当局が当初等々力緑地に博物館と現代映像文化センターをつくろうとする計画が変更されて、二つの施設が統合されたためである。 開館当初は、考古、民俗、歴史、グラフィック、写真、漫画、映画、ビデオ、美術文芸(特別展示室)という部門に分かれていたが、2007年より博物館部門と美術館部門になる。
 グラフィック担当の学芸員に保存方法をうかがうと、収蔵庫の温度は20℃、湿度は55%RHで通常の絵画保存の基準と変わらないという。絵画はすべて縦置きしてある。作品はアール・デコ時代が特に充実している。
 写真担当の学芸員はお忙しいということで、代わりに日本画像情報マネジメント協会の方に質問した。アナログ、デジタルに関係なく、写真の保存については、特に難しい技術は無く、問題の膨大なデータをどのように扱うかが問題である。例えば、国立公文書館では、どんなメディアを使い、どのように管理して、アーカイブ保存するかが、ホットなテーマになっている。主な推奨保存条件としては温湿度管理(推奨:20℃、30%RH)、保存形態としてアルバム(フイルム、印画紙)、ケース(スライド)、あるいはディスクケース(光ディスク)に入れ、物理的なダメージを防ぐと共に、空気との接触を減らして酸化防止する。アルバム、ケース類は、縦置きする。長期保存するためには磁気テープと光ディスクが多い。デジタル写真をアーカイブ保存するときの検討課題は年数であり、検討中のブルーレイでは、30年になっている。またマイグレーションも問題である。PDF/Archive による保存ソフト統一が、国際標準ISO 32000として制定され、文書保存の分野では主流になりつつある。
 漫画担当の学芸員は、すでに江戸期から昭和初期に至る資料群はそろっているが、日々増え続ける漫画の保存は限界であるという。漫画現象までふくめたすべての漫画の収集保存は断念せざるを得ない。とはいっても、川崎市市民ミュージアム美術家部門の方針であるメディア芸術を基調とした方向の漫画資料なら100年後の研究者に向けて収集保存したい。表智之・金澤韻・村田麻里子『マンガとミュージアムが出会うとき』臨川書店、2009年参照。
 映像文化担当の学芸員は、日本のアーカイバルデバイドに危機感をもち「すばらしき世界旅行」で有名な牛山純一のドキュメタリーのデジタル保存、戦時中ニュース映画の修復と保存に取り組んでいる。すでに慶應義塾大学と食品メーカー桃屋との共同でCMのアーカイブ化に成功した。現在は桃屋のHPから自由に閲覧可能である。
 文化財保護法に定義されない「文化財」がミュージアムに入るには、設立者のひとりであるグラフィックデザイナー粟津潔の力が大きかった。最後に彼の言葉を引用して終わりたい。「ベンヤミンは、複製技術とはオリジナルと複製との往復運動だと。(中略)僕はむしろ、複製の中にアウラが出てきているという説なんです。(中略)僕らはやっぱりアウラをどこかで見つけていくと思うんです。」(多田道太郎・粟津潔・前田「鼎談 複複製に進路をとれ」『太陽』1983.10.,pp43-46)




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