題:「秘密基地」を読む 発表年月日:2011年10月01日
子ども時代に秘密基地で遊んだ思い出のある人は多いだろう。アメリカの環境教育研究者、David Sobelは、子どもや大人を対象にした秘密基地調査の結果、秘密基地作りが時代を越えて子どもに見られる現象ではないかと述べている。今回の発表では、本務校の学生(男子19名、女子31名)による秘密基地(秘密の場所)についての回想文を題材に、遊びの原空間としての秘密基地の読み解きを試みた。氏名:川越ゆり(東北文教大学短期大学部専任講師) まず、回想文に描かれた秘密基地で遊んだ時期については、小学校3年生が最多で、2年生と4年生が同数でそれに続いた。場所については、1.山・林・田畑・野原・空き地・竹やぶ・特定の木、2.押し入れ、3.空き家・小屋・物置、4.家具や寝具で作った家、5.橋の下・テトラポッドなどが挙げられており、戸外に作った秘密基地が目立った。また、多くは人目につきづらく、遮断性の高い、狭い場所が選ばれている。 秘密基地は文字通り「秘密」の場所であり、メンバー以外には固く閉ざされている。回想文の中には、誰にも言わないというルールを作る、合い言葉を作る、見張りをおくなどの記述も見られた。特に大人に秘密にする傾向があることを考えると、「子どもだけの世界」という性格を備えた場ともいえるだろう。 秘密基地で興じた遊びとして多く挙げられていたひとつに、「ごっこ遊び」があった。ごっこ遊びをしているとき、子どもはいつもの自分とはちがう誰か(冒険者やままごとの母親役など)を生きている。その意味で、秘密基地は「別の自分を生きる遊戯空間」としての性格も備えているが、とりわけ、冒険・探検ごっこの類いでは、食料を調達したり、家を建てたり、敵を退治したりして、自力で生きているかのようにふるまっている。家庭や学校では大人の保護下にある子どもが、大人を閉め出した子どもだけの世界で大人のようにふるまっているという現象は、非常に興味深い。 秘密基地はそこにいると気持ちが落ち着く隠れ家、居場所としての役割もはたしている。これについては、少数で共有される、あるいは自分ひとりの秘密基地の回想文に多く見られた。また、秘密基地という場を作ることについて、多くの記述を割いた回想文も見られた。秘密基地は、子どもが自分自身の手で自分のための居場所を作り、オーナーになることを体験させてくれる場でもある。少数ではあるが、秘密基地の中から外を眺めたことを回想しているものもあった。隠れ家的場所から外の世界を眺める子どものイメージは、イギリスの詩人、Walter de la Mareの詩集Peacock Pie や、アメリカの絵本作家、David Wiesner のHurricaneにも描かれている。安全に守られた内側から外の世界を観察するという経験が子どもに何らかの心的影響を与えるのであれば、秘密基地はそのための最適な場になり得るだろう。 人はさまざまな場所とかかわりながら生きていく。自分自身で作った最初の居場所である秘密基地は、生きていく上での空間体験の原点ではないだろうか。 |