第4回大会発表概要


題:憑依か、侵略か?映画における寄生虫像
―――『エイリアン』から『ブリジット・ジョーンズの日記』まで


発表年月日:2002年12月14日

氏名:伊藤由起子(日本大学芸術学部・
千葉工業大学非常勤講師)


 寄生虫と一口に言っても、肉眼では見えないような小さな原虫から、人の腸に住み着き20メートルにまで成長するサナダムシまでさまざまだ。造形美にあふれた顔を持つものから、ユニークな生態を持つものまでおり、深く知ろうとすると驚きの連続である。
 「寄生虫」はハゲタカやハイエナと同じように「他人から何かを掠め取って生活している人」に対して比ゆとして使われてきた。また、歴史的には上流階級、労働者階級、浮浪者、そしてユダヤ人というようにいろいろな階級や人種を指して用いられたこともある。ところが、ここ20年ほど寄生生物は「進化の鍵を握る生物」として脚光を浴び、社会的啓蒙書や科学書が相次いで発表されており、そのイメージも変化した。
 2000年にアメリカで出版されたCarl ZimmerのParasite Rex (邦訳:カール・ジンマー『パラサイト・レックス』、2001年、光文社)では、そうした傾向を受け、寄生生物に関する新しい見解を提示している。その中で氏は、『エイリアン』や『X−ファイル』など寄生生物が登場するホラー映画・テレビ番組についても考察し、「寄生生物が社会の進歩の途上に立ちふさがる望ましくない、弱い要素を代表する者として、軽蔑を持って扱われていた時代があった。いま寄生虫は弱者から強者となり、軽蔑は恐怖に置き換えられた」という。
 発表ではまず、文学、自伝、評伝、社会史書などに表れる「寄生虫」という表現の意味の変遷を概観し、現代においてどのように変化したのかを紹介した。そして「寄生虫」という言葉をキーワードにして、アメリカ、ヨーロッパ、日本で製作された10作品程度の映画を紹介した。その中にはジンマーの挙げたホラー作品だけでなく、『愛さずにはいられない』(1989年、仏)、『パンク』(1993年、英)、『トレインスポッティング』(1996年、英)、『ペスト』(2000年、独)といった恋愛・青春・パニック映画についても紹介し、さらにコメディ映画『ペストはカメレオン』(1997年、米)などについても考察した。
 寄生虫は、ホラー映画においては幽霊のように人に憑依し、宿主を恐ろしいモンスターに変えるか、地球外生物として人類に寄生し、地球侵略を図る人々にとって脅威の存在である。
 しかし、『ペストはカメレオン』のように茶化されて表現されることもある。さらに、英国において最近発表された2つの小説ヘレン・フィールディング『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)とアーヴィン・ウェルシュ『フィルス』についてみてみると、前者ではダイエットに成功し体重が減った主人公の女性が、サナダムシに寄生されているのではないかと友人に言われ「あたしサナダムシちゃんを愛しているの」と言っていること、また後者ではサナダムシは副主人公として登場し「荘厳なる美の生物」として描かれていることなどから、一義的に侮蔑的にしか用いられなかった「寄生虫」という表現の歴史は現在において変わりつつあるのではないかと思う。




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