題:「アメリカ・サザンロックに関する考察 ―The Allman Brothers BandとLynyrd Skynyrdを題材にして―」 発表年月日:2012年12月22日
サザンロック(Southern Rock)とは、1960年代から1970年代にかけて流行したロック音楽の一形態である。サザンロックと見なされているバンドの特徴には、当然ながらアメリカ南部で誕生し活動しているという地域性、またはブルースやジャズといったアフリカ系アメリカ人の音楽からの影響、バンド内外に親族がいるという血縁関係、そして不慮の事故によってメンバーを失うという悲劇を持つという共通性が見られる。本発表ではそうしたサザンロックの南部の地域性を踏まえた上で、代表的な二大バンド、The Allman Brothers BandとLynyrd Skynyrdを題材にして、主に人種問題を中心に論じた。また発表では、この二大バンドの他に38 Special、The Marshall Tucker BandやTedeschi Trucks Bandといった、同様に南部という地域性、血縁、そして悲劇性といった特徴を持つ彼らと関わりのあるサザンロックバンドも比較しつつ紹介した。氏名:岩崎巧(茨城大学大学院) The Allman Brothers Bandはアフリカ系アメリカ人とその音楽に強い敬意とあこがれを抱きその音楽性を追求してきたという特徴を持つバンドである。その中心メンバーAllman兄弟は、1950年代後半から1960年代前半に育ったフロリダ州デイトナビーチで地元のアフリカ系アメリカ人たちとバンドを結成し活動していた。人種差別のまだ激しい当時の南部で、時に危ない目にも遭遇しながら彼らはアフリカ系音楽を吸収し、後のThe Allman Brothers Bandの下地を作っていった。またAllman兄弟の兄DuaneはスタジオミュージシャンとしてAretha Franklinなど数々のアフリカ系ミュージシャンのバックで演奏もした。南部という地域性の中で、公民権運動で揺れる時代、アフリカ系音楽を追及する彼らのバンドの不遇は否めなかったが、外野の謂われない批判を跳ね返してそれを貫き通した。そしてやがて兄弟はThe Allman Brothers Bandとしてデビューを果たし、サザンロックの代表的なバンドとなる。 対してLynyrd Skynyrdはステージで南軍旗を掲げ、自らをレッドネックの代表と自称することが特徴のバンドである。これは既に大衆に「The Allman Brothers Band=サザンロック」という存在感と認知度が定着している中で、Lynyrd Skynyrdが新たなイメージと白人層をファンとして取り込むレコード会社が考えた戦略とも推測できる。そのような中、彼らの代表曲と言える“Sweet Home Alabama”は人種問題で数々の論争を巻き起こした。この曲の歌詞中で彼らは「Neil Youngの南部の人種差別批判を扱った曲“Southern Man”を批判」し、「時のアラバマ州知事で人種差別主義者として知られたGeorge Wallaceを賞賛」した。アメリカのケンタッキーフライドチキン社は南部らしい歌とこの曲をCMソングに採用すると、人種差別を肯定するのかと批判まで受けた。 出自も音楽性も人種問題に対する態度も異なる、こんにちサザンロックを代表する二大バンドであるが、南部で誕生し活動しているが故に、人種問題に深く関わらざるをえなくなっている点は興味深い。また一方、南部が持つ閉塞性、奴隷制度、南北戦争敗北など数々の歴史における悲劇性も、少なからずサザンロックにはそのイメージとしてついて回り、彼らサザンロックのバンドは今後もこの南部文化を背負っていかざるを得ないものと考えられる。 |