第45回大会発表概要


題:イエスを大統領に ―「新しい修道院生活」運動の政治的活動―

発表年月日:2013年03月22日

氏名:石塚幸太郎(神奈川大学)


 「新しい修道院生活」は、公式には2004年に活動を開始した、アメリカのキリスト教徒を中心とする運動である。「新しい修道院生活」運動のネットワークには、主に都市部の貧困地区で共同生活をしながらその住民たちに対して奉仕活動をする、新旧さまざまな共同体が参加している。日本ではセツルメントと呼ばれるこうした運動は、アメリカにおいては19世紀末に設立されたシカゴのハル・ハウス以来の歴史があるが、現在、その歴史上で何度目かの盛り上がりを見せている。もちろんアメリカのキリスト教界全体からすれば、いまだに周縁的な現象とはいえ、リーダーの1人であるシェイン・クレイボーンの著作はベストセラーとなり、それを読んだ若者が次々にこの運動に参加しているという。なぜこの時期に「新しい修道院生活」が現れたのか、この発表では、クレイボーンたちの政治的な活動に注目することでそれを考察した。
 クレイボーンは、1998年にフィラデルフィアのケンジントン地区に「シンプル・ウェイ」という共同体を設立する。以来彼は、その近隣の住民たちを支援するだけでなく、著作や講演を含め、国内外でさまざまな活動を行って来た。彼の政治的活動は、選挙やロビー活動を通じたものではなく、直接的なものであることが多い。その例として、教会に住み込んだもののそこから強制的に退去されそうになったホームレスの家族たちを支援したり、あるいは戦争の始まろうとしているイラクに赴き現地の人々と交流したりしたことなどが挙げられる。
 ところでクレイボーンが活動するにあたって協力し合うことの多いのは、福音派左派と呼ばれるキリスト教徒である。福音派左派は、公民権運動などをきっかけに登場した、さまざまな社会的正義の実現を主な目的として活動する福音派の人々を指す。例えばクレイボーンが大学在学中に学んだ、トニー・キャンポロもその1人である。彼らは中絶だけでなく、一貫して生命を尊重しなくてはならないとして、戦争や死刑制度にも反対している。そしてそうした点で、ブッシュ政権を支えた「宗教右翼」と呼ばれる福音派とは一線を画している。
 オバマを選出することになる大統領選の予備選挙の終了した、2008年の6月下旬から約1か月間、クレイボーンはクリス・ホーら仲間と共に「イエスを大統領に」と題したキャンペーンを行った。同名の著作の刊行に合わせたこのキャンペーンは、特定の個人を大統領に相応しいとして推薦するようなものではなく、キリスト教徒がいかに政治に関わるべきかを問うものだった。具体的には、キリスト教の理想を実現するためとして、過度に政治に関与している主流の福音派に対する左派からの批判だったのである。
 「イエスを大統領に」というキャンペーンに明らかなように、「新しい修道院生活」運動は、隣人愛というキリスト教の教えを実践するだけでなく、アメリカにおけるキリスト教のあり方を問い掛けてもいる。だからこそこの運動は、福音派がブッシュ政権を熱心に支持し、一方でそれに対して悪いイメージを持つ人々も徐々に増えつつあった時期に盛り上がりを見せたのである。




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