題:「NHK連続人形劇『プリンプリン物語』の世界 ―あるいは、子供番組のスタッフはクレームにどう対処したか― 発表年月日:2013年07月06日
氏名:片岡 力 氏 (フリーライター兼編集者) ![]() 子供番組に政治的メッセージを盛り込むには、そのこと自体の善し悪し(特定イデオロギーの押しつけになっていないかどうか)もさりながら、それを子供にもわかりやすく印象に残る表現に落とし込まなければならないという難しさがある。『プリンプリン物語』はこの難点にユニークな知恵をもって挑んだ。米ソ冷戦下の「核の傘」になぞらえた「三角の傘」なる珍アイテムがその好例だ。大量殺人兵器を「ヒ・トゴロチバクダン」と表現しているのもそうである。「人殺し爆弾」では、殺伐すぎて子供が口にするのは憚られる。例えば「スカッドミサイル」のごとき“クール”な表現にするのが無難だろう。しかしそれでは「人を殺傷するためのもの」という兵器の本質が隠蔽されかねない。そこで制作サイドは、「ヒ・トゴロチバクダン」という表現に仕立て直した(ヒトゴロ「シ」ではなく「チ」、かつ「ヒ」とそれ以下の部分を区切って発音させる)。これにより、兵器の残忍な本質をつねに露にしつつ、しかし子供が口にできるものになった。こうした“トンガった”表現傾向ゆえに周囲からのクレームも少なくなかったが、制作サイドは簡単には引き下がらなかった。一例を挙げるなら、主人公のプリンプリンの胸元(人形の!)が開きすぎだ、という新聞の投書には、胸元を隠すどころかどころか、逆にわざわざ裸の胴体を造って入浴シーンを放送することで応じた。 近年の商業作品では、ポリティカルな要素を作品から極力排除する傾向が強い。勿論政治ネタを持ち込めばそれで実効的な批評性が担保できる訳ではない。特に子供向け作品においては、それをどんな表現に落とし込めば子供の心に響くのか、そこでの知恵が求められる。その意味で『プリンプリン物語』は、放送から30年以上経った今でも顧みるべき知恵が詰まった作品であり、そしてそれは、人形劇そのものが本来持っていた批評性の発露でもあった。 『NHK連続人形劇 プリンプリン物語 メモリアル/ガイドブック』(友永詔三監修、河出書房新社刊)を執筆・編集したのを機に、上記内容をお話しさせていただいた。 |