研究会第6回大会発表概要


題:『マトリックス』― 郊外という名のヴァーチャル・スペース

発表年月日:2001年6月30日

氏名:越智敏之(千葉工業大学専任講師)


 映画『マトリックス』(1999)で主人公のネオがトゥリニティに尋ねた「マトリックスとは何だ」という質問は、同時に製作者が観客に向けた「この映画でマトリックスがメタファーとして表現している現実は何か」という謎かけにもなっている。この映画はまた、多くの先行作品をパロッた作品としても有名だが、なかでも『ボディスナッチャー』(1956)はマトリックスの謎かけを解き明かす上で重要である。
 『ボディスナッチャー』は戦後急速に開発が進んだ、自動車を交通手段とした郊外を批判的に描いた作品だが、この作品では郊外の住民が宇宙から飛来した巨大なサヤ‘pod’に取り込まれ、感情を持たないコピー人間と化してしまう。ちなみに郊外の住宅地は上空から見た形状からやはり‘pod’と呼ばれているのだが、『マトリックス』でも住民は、真実を知らずに睡眠カプセル‘pod’の中で栽培され、発電所につながれて生態エネルギーをロボットのエネルギー源として利用されている。『マトリックス』でネオが夢の世界から目覚め‘pod’から身を起こす場面が、『ボディスナッチャー』で‘pod’からコピー人間が生まれてくる場面と似ているのである。
 戦後開発されたアメリカの郊外は経済政策の一環として開発が進んだ有史始まって以来の不自然な住空間で、この空間の開発がアメリカの戦後消費経済に与えた影響は大きい。そのために50年代には郊外を舞台としたホームコメディが数多く放映され、不自然な住空間での疎外感を覆い隠していた。また、新しい住空間の拡大は戦後ベビーブームの持続を可能とし、多くのベビーブーマーが郊外で育ったため、彼らが文化の発信者となると、郊外は多数のホラー映画の舞台として貶められるようになる。『マトリックス』での「マトリックス」とは、発電所につながれた‘pod’とその中で人間が見ている夢を指しているが、これは人間が郊外‘pod’に入り消費経済の拡大のエネルギー源となっている状況のメタファーといえるだろう。




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